作品への熱。「君たちはどう生きるか」展を訪ねて。
2024.07.26
平日の木曜日。めずらしく仕事を休んで、三鷹の森ジブリ美術館へ。現在開催中の企画展示、「君たちはどう生きるか展」を見に行ってきた。
実は先週末の大学の講義も三鷹だったので、1週間の間に3度も三鷹に行っている。何度行っても、緑豊かでいい町だなと思う。
昼過ぎに美術館に入ると、平日にも関わらず、すでにたくさんの人がいた。海外の方も多くいて、日本人としてちょっと誇りに思ったり。
「君たちはどう生きるか展」は、期間を分けて全3回開催されていて、第2回となる今回は、「レイアウト」を中心とした展示だった。「レイアウト」とは、絵コンテをもとにして、キャラクターの角度や位置を決めたり、背景をどんな絵にするのか、どのようにカメラが動くのかなどを設計したりするもの。宮崎吾朗監督によると「実写映画の演出家とカメラマンを合わせたような作業」とのこと。
レイアウトなるものを見るのは初めてだったけれど、鉛筆で描かれた絵の中には、普段は見られることのない、宮崎駿監督の指示が書いてあったり、作画監督のメモが書かれてたりして、制作現場の雰囲気が強く感じられるものだった。
最初に見て感じたのは、本当に単純なことだが、絵がうますぎるということだった。アニメとなって色が付いたり動きが加わったりすると、これを人が描いているんだという意識が薄れる気がする。その世界は人によって生み出されたものではなく、あたかも元々存在していたような感覚になる。だからこそ、私たちは物語に集中することができる。
だけれど、まだ動きの加わってないシンプルな鉛筆画を見ると、この絵は実際に人が描いているんだなということが強く意識される。一本一本の線の滑らかさや、表情や人体の表現の自然さがはっきりと際立っていた。本当に私たちと同じ鉛筆を使っているのか、と疑わしくなる。
物語の舞台となる架空のお屋敷や背景の絵は特に圧巻で、よく実際には存在しないものを想像力だけでここまで緻密に描くことができるなと恐ろしくなった。
また、レイアウトに書き加えられた監督・アニメーター達の指示やメモ書きをみると、細部まで徹底的にクオリティを追求していることがよく分かった。たった一本の線で、意図したものとは違う意味が伝わってしまったり、不自然さが生まれて観客を惑わせてしまったりするからなのだろう。アニメはこだわって作られているのだろうとは思っていたが、その熱量は想像以上で、それはレイアウトをみることで初めて知ることができた。
クリエイティブ業界の一員であるデザイナーとして、本当に頭が上がらない思いがしたし、身が引き締まった。常日頃、ここまで徹底した仕事ができているかな。
宮崎監督は常々、アニメーションを通して「この世は生きるに値するんだと伝えたい」ということを言われている。これほどまでに徹底したこだわりと熱情を注がれた作品だからこそ、私たちに大きな感動や、明日もがんばろうという生きる勇気を与えてくれるのだなと思った。
そんな作品を私も作りたい、と思う。まずは目の前の仕事から、コツコツと。
余談だが、レイアウトに書き込まれた宮崎監督の指示が、ものすごく言葉遣いが丁寧で面白かった。ドキュメント映像などからのイメージでは、もう少し厳しく書いてありそうな感じがするのにちょっと意外。
11月から始まる「君たちはどう生きるか」展の第3回は、「背景美術」に焦点を当てた内容になるそうで、そちらも絶対に行きたいと思った。