『あの頃』
2024.07.24
深夜、幼馴染とビデオ通話で遊戯王をすることにハマっている。お互いの場をビデオで映しながらプレイするのである。カードゲームは対面でないと盛り上がらない気もするのだが、やってみるとこれが案外面白い。
きっかけは、1ヶ月ほど前に幼馴染が言った、「久しぶりに遊戯王やりたくね」の一言だった。
私たちの世代は小学生のころに必ず遊戯王にハマる。少し恐ろしげなイラストと、絶妙な難易度に設定されたルールに心を奪われ、友達と遊ぶときは必ずと言っていいほどカード一式を持って行った。
中学生くらいから徐々に遊戯王からは離れていったのだが、そう言われると、久しぶりにやりたい気がしてきた。もちろんカードは手元に一枚もない。2人してネットショップでカードを買い揃えた。ルールやカードの種類は、当時のままやることにした。ゲームを楽しみたいというよりは、あの頃の懐かしさを味わいたいという思いの方が強かった。
遊戯王をやる時は、2人ともなぜかアニメのようなセリフを言いながらプレイしてしまい、本当に子供に戻った感覚を味わえる。
「次のカードに賭けるぜ!俺のターン、ドロー!」
「どうした、俺に勝てるとでも思っているのか」
「くっ、天は俺を見放したのか……」
「ふんっ、まだまだだな。俺の勝ちだ!」
などとビデオに向かって話しかけながら、夜な夜なカードゲームをするアラサー男。
妻はどういう気持ちで私を見ているのだろうか。
最近、不意に「あの頃に戻りたい」という感覚が降ってくる時がある。
具体的にどの頃なのかははっきりしない。ただ、なんとなく「あの頃」に戻りたい気がするのだ。
しまいには、YouTubeで、昔見ていたNHK教育番組の「夕方クインテッド」のOPテーマを聞いたりする始末。これは、かなり重症なのではないだろうか……。
学校から帰ったら、家族で食卓を囲みながら名探偵コナンと犬夜叉を見ていたあの頃。あまりにも危険な高所に登っていく友人が勇者に見えたあの頃。卒業式で、純粋に皆と会えなくなることを悲しんで涙を流したあの頃。
あらゆることが新鮮に感じて、理由もなく毎日が楽しかった気がする。生活の不安や対人関係の悩みとは無縁だった。そして、この先にどんな未来が待っているのかワクワクして仕方なかった。
そんなあの頃に戻りたいと思うのは不自然なことだろうか。
思ってみたところで、過去に戻ることはできないし、実際に戻ってみたら案外この頃も大変じゃんと感じたりするのだろう。
ただ、あの頃のような生きるワクワクだけは取り戻したい気がする。なんでもかんでも楽しかった気持ちに戻りたい気がする。
大人になった私たちにそれは可能だろうか。可能であるなら、その方法を教えて欲しい。
そんなことを思いながら、今夜も遊戯王を楽しむ。